情事のあとさき
久々に、天井を見上げる体勢。
バカ、と罵る声は甘く、それだけで愛撫になる。膝を押し、圧し掛かかり、熱い先端でひだを押す。熱くて、痛い。思わず瞑る目、思わず上げる声、そのどちらも、立場が逆なら自分が最も愛すものの一つである。この感覚を倒錯と呼んでもいいし、恍惚と表現してもいい。
碧の抱き方は、丁寧だ。
丁寧に、蹂躙する。時々、抱かれている時のような声を漏らす。ただ、そういう時の自分はもっと甘く泣かされている。
仲直りのセックスと言ったのは自分だが、そうやって、溶け合う内にオーガニズムという確かな感激でひとつになる行為は、彼が答えたように、最善策ではなくても有効なのだ。そうであるべき、とも思う。
疲労感に導かれるまま眠りに落ちて、目が覚めても、隣に体温がある。太陽はすっかり昇り、部屋の中には透明な光が差し込んでいた。サラリーマンなら遅刻必至の時間だが、フリーランスの身では始業時刻も終業時刻もない。同じくらい、いやそれ以上に自由に見える芸能人の仕事にその論法は通じないことは知っていたが、ぐっすりと眠る恋人を起こす理由を、永久は持たなかった。
それほど体格の変わらない成人男子を、ソファーまで抱き上げるのは不可能だから。せめて慎重に彼の身体を毛布でくるむが、それでは何一つ断ち切れない。静的で性的な生命体だという現実が、強調されただけだった。たとえば彼のこの美しさが、何かと比較できる、あるいは何かと同列に並べることができるものであってはならない。彼のものでいたいなら、それを、じゅうぶんわきまえておかなければならない。権利のために義務を負うのは、当然だった。果たす喜びを味わうことこそ、義務との正しい付き合い方だ。
いつから起きていたのか、もしかしたら全ての目撃者だったのかもしれない。毛布の端に片足を乗せようとするアオを、強引に抱え上げる。
「ダメ。起こさないの」
ニャー、不満の声を上げる口を、望まれざるキスで塞ぐ。永久は彼女を追いやって、バスルームへ向かった。