Novel >  拍手おまけ >  2015年末~2016年始 不定期SS8

「あっちゃんは初めてなんだっけ」
「うん。てかエディは逆に、なんで行ったことあるの?」
 夕暮れ時の歩道を、長身の男二人が歩いている。少なくとも落ち合ってからここに至るまですれ違った人々は、ほぼ例外なく彼らを振り返っている。主な原因は、この二人連れのうちの一人にある。天然の金髪碧眼の上、その物珍しさを抜きにしても絶世の美男子が、さらにコスプレさながらの和装とあらば、人目を惹かないわけにはいかないだろう。と、もう一人のほう、いかにも人畜無害で穏やかな雰囲気の男は思っている。
 住宅街へと入って行くと、人間とすれ違うことはほとんどなくなる。普段ならそれなりに車通りの多い道路も、時折ヘッドライトがちらついては去っていく程度で、閑散とした印象だ。初詣や団欒などの賑やかな風景がある一方で、普段忙しない街並みが奇妙に落ち着き払っているのも、正月の風景というものだろう。
「終電逃して、何回か泊めてもらったことあってさ」
「その理由、前にも聞いた気がするな。しかもすごく最近、具体的には昨日」
「どっちも数回だって」
「いやいや、そうじゃなくてね。ま、いいけど」
「いいのかよー」
 集合住宅の多い一角、オレンジ色の外壁の小ざっぱりとした三階建てアパートの前で、二人は足を止めた。
「ここ、ここ」
「へえ、ちょっと意外」
「だいぶ違うよね。雨露しのげればいい兄と、住み心地重視な弟」
「まあ、家で仕事してるわけだし」
 言いながら一番奥の階段を上り、三階の左手側のドアホンを鳴らすのは、和装の外国人。
 ピンポーン。
「カニはなくてよかったのかな」
「二日続けてカニは贅沢すぎるよ」
「あ、そうじゃなくて」
「うん、てかほら、ここに調理が必要なもの持って来てもしょうがないでしょ。常々料理しないって言ってる人なんだから」
「もっともだ」
 二人が手にしたコンビニ袋には酒とつまみがどっさりと入っているのが、少し見ればわかるだろう。
 ややあって、ドアの向こうで物音がする。事前連絡はしないのが、今回のルール。留守なら留守で引き返すのみだったが、運良く在宅だったようだ。
「はいはーい、今出ます」
 しかし、聞こえてきたのは聞き慣れない快活な男の声。ガチャリと開いたドアの向こうにはやはり、見知らぬ人物が立っていた。
「うっわ、すっごいイケメンがいる!」
 第一声にそれを浴びて、一瞬驚いたようだが、相手はすぐにはっとしたように切り返す。
「いやそれこっちのセリフですけど!」
 金髪碧眼の美男子と、明らかに日本人ではあるものの確かに一目で整った風貌とわかる男が、お互いを指差しあって絶句し合う。最も早く立ち直ったのは、当事者でない三人目の男だ。
「エディ、もしかしてここ、崇さんの部屋じゃないんじゃない?」
「あれ、おっかしいな」
「崇さん?」
「あ。東雲崇さん」
「ののめ先生」
「あ、そうそう、そうです」
 男はにっこりと頷いて、部屋の奥を振り返った。
「ののめ先生、お客さんでーす」
「聞こえてるから。あと先生やめて。きみだって先生でしょ」
 億劫そうなぼそぼそ声とともに、のそりと出てきた人物こそ、この部屋の家主だ。眼鏡の奥の眠たそうな目で来客を見やりつつ、
「どうしたの急に、驚いた」
 およそ説得力のないことを言う。
「お正月だから、酒とつまみ持って来ましたー」
「来ました」
「正月だからって、どういうこと」
「まあまあ」
「……せめて、兄のほうへ行ってほしかった」
「丈さんちには昨日行きました」
「ひなっちゃんのカニ鍋うまかったです」
「……きみらはうちの兄弟に恨みでもあるの?」
「いや愛しかないよ、むしろ。ね、あっちゃん」
「ええ」
「ま。寒いから入って」
「お邪魔しまーす」
「お邪魔しまーす」
「ののめ先生、俺のこと紹介してくださいよ」
「ん――これ、藤丸くん」
「いやもうちょっと、なんかこうないっすか」
「ない」
「ひどーい」

To be continued…?

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