「俺が子供の頃住んでたとこってさ、このへんより全然暖かかったんだけど」
「ロサンゼルスだっけ?」
「うん。でも、何故か家に暖炉あったんだよね。単なるインテリアじゃなくて、実際使ってた記憶もなんとなーくある。今の実家にもあってさ、親父が薪割ってるんだって」
「へえ。日本で暖炉は、珍しいかもね」
「うん。でも、マンション住まいで暖炉は無理だよねえ」
「はは、ほしいの?」
「薪がパチパチする音とか、火にあたってるなーって感覚とか、わりと原体験なのかもって思って――ま、今はこれがあるけど」
言いながら、布団から腕を伸ばしてリモコンを操作する。設定温度を、プラス二度。
「文明の一時的勝利、ですね」
「違う違う、こっち」
暖房はあくまで補助的なもの。摂を温めてくれるのは、逞しくも優しい恋人の身体である。
「それは光栄です」
喉の奥で笑いながら、ノアは摂を抱きしめ、胸に引き寄せた。うっとりと頬ずりをして、目を瞑って感じていたい、何よりも心地よい生命の温もり。それだけでなく、時には溶けてしまいそうな、いや、干上がってしまいそうな強烈な熱を摂にもたらすこともできる。
「摂?」
柔らかなテノールが耳元をくすぐる。不埒な気持ちを潜ませて見上げると、勘の良いノアもまた、悪戯っぽく微笑む。二人は笑い合いながら、唇を重ねた。