物は試しに、とリビングにホットカーペットを導入してみたところ。
一人と一匹がそこに寝そべったまま動こうとしない。奇しくも同じように少し背中を丸め、膝と腕を胸元に引き寄せた、大小の三日月。飼い猫が人間くさいのか、恋人が猫のようなのか。
「気持ちいい?」
「うん……」
夢心地な声で言って、碧が億劫そうに寝返りを打つ。
役作りで伸ばした髪が房になって落ち、それを払う仕草もまた猫のよう。永久が失笑と同時に煙を吐き出すと、霞んだ視界の向こうで恋人もうっそりと微笑んだ。
「来ないの?」
「お。誘ってんの?」
「だって、せっかく買ったのに」
「まあ、アオのために買ったようなもんなんだけど。思わぬものが釣れたな、と」
「はは、ひどい」
「どっちがだよ。俺のことほったらかしやがって」
「じゃあ、来ないの?」
煙草を揉み消して立ち上がる。
まったく、苦労して手に入れたコーヒーを味わうのもそこそこに、思いつきで買ったホットカーペット一つで上機嫌になるのだから、恋人の裏切りとはどうしてこうも心地良いのだろう。