Novel >  KEITO >  二十二時のチョコパフェ2

2.

 喫煙席について、乾は迷わずデザートのメニューを開く。
「中村くんは?飯食った?」
「まだ」
「どうせ今日一日ろくに食ってないんだろ」
「……うん」
 ふっと笑った乾に無言でメニューを差し出され、大して食欲もないのだと言い訳することもできず、何度かページをめくり直してパスタの写真でやや長考に入る。
「髪切ったんだな」
「あ、うん」
「似合ってるよ」
「……いつものやつだよ」
「だから、だろ」
 またふっと笑って、煙草に火をつける。
 注文は、チョコパフェとカルボナーラ、それにブレンドコーヒーを二人分。ほんとうにパフェを食べるんだ。
 まずはよく保温されたコーヒーがウェイトレスの手で注がれ、おつかれさまと言い合って、一口啜る。
 ひとつ開けた向こうのテーブル席には、同じように仕事帰りと思しきスーツ姿のサラリーマンと、あの感じは歯科助手かな、白い制服の上にカーディガンを羽織った女性のカップルが座っていた。
「今日、何してた?」
「えっと、髪切って」
「だろうなあ」
「本屋寄って、CD屋に寄って、映画見て……」
「映画?なんだよ、俺も誘ってよ」
「や。すごいマイナーだし、俺もどうしても見たかったってわけじゃなくて」
「うん」
「高校ん時かな……昔読んだ小説の映画化で、まさかあれが映画になるなんてっていう好奇心っていうか……ミステリーっぽい幻想小説だったんだけど、あの、乾さんはたぶん」
「興味ないだろうなあ、って?」
「……うん」
 ちらりと目を上げて窺うと、呆れた声とは裏腹に、乾は愉快そうに目を細めていた。
「面白かった?」
「……普通だった」
「わは」
 大きくあさってに煙を吐いて、肩を揺らして笑う。急に気恥ずかしくなって、慧斗も煙草に火をつけた。カチ――ふー。
「乾さんは、仕事」
「新しいプロジェクトが始まっちゃったからね。でも年末には一旦落ち着くから、正月休み長めに取れる予定」
 よかったと無神経に喜んでもいいのかなんて思ったせいで、うん、とも、ふうん、ともつかない気のない返事になってしまった。弁解するより先に、「お待たせしました」の声とともにチョコパフェとカルボナーラがテーブルに置かれる。
「よし、食うか」
 嬉しそうに言った乾が、パフェをスプーンで抉る。甘党ではなかったはずの男は、うまそうにチョコソースのかかったチョコクリームを頬張るのだった。
 カルボナーラをフォークで巻き取りながら、ちらちらと見ていたら、うっかり目が合う。
「きみんとこでスイーツ買うのも考えたんだけど。そういや今日いねーなって気づいて」
「うん」
「じゃあ一緒に食いに行けばいいじゃんって」
「うん」
「中村くんも食う?」
「いいです。乾さん、パフェなんて食べたっけ」
「全然。大して好きじゃないはずだったんだが、むしょうに食べたくなってさ」
「疲れてるんですよ」
「かもなあ」
 チョコアイス、チョコプリン、コーンもココア色で、トッピングもチョコレート菓子。チョコ尽くしのスイーツを飾りのミントまできれいに食べた乾が頬杖をついてこちらを見るので、慧斗は慌ててカルボナーラ消費を再開した。

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